2023年10月25日水曜日

【IP NOTE】グローバル環境での生命工学技術特許管理戦略

人間の生物学的限界を克服して健康に生きていく技術を発明することに世界が没頭しています。このような流れの中、生命工学は21世紀の革新技術に浮上して人類の宿願で宿題を解けてくれる代表分野として注目されています。生命工学によって変化する人類の未来が期待される中、関連技術をどう特許化して管理すべきかもまた重要なポイントになっています。
今回のポストでは、生命工学技術の特許出願現況、倫理問題及びその他のイシュー、そして国々の多様な特許基準を基にグローバル環境での生命工学技術の特許管理戦略について調べてみたいと思います。

生命工学発明と特許

生命工学技術の特許管理戦略について確認する前に、まず生命工学発明の定義及び概念について調べてみます。ヨーロッパの特許協約(European Patent Convention)は、生命工学発明を「生物学的な物質で成り立っている生産物」または「生物学的物質を含有する生産物」と定義しました。これはつまり、DNA配列、遺伝子、たんぱく質、生物学的物質を生産及び処理または使用する過程と関連する発明を意味します。

また、生物学的物質は遺伝情報を含めて、生物学的システムで自体的に繁殖したり繁殖できるすべての物質を意味します。ここには生物学的組織及びDNAのみならず生物体も含まれます。最後に生命工学特許は生命工学発明に対する特許で、例としては植物、動物、人間の細胞、組織、器官または遺伝子が修正された動物、植物そして遺伝子が修正された種などがあります。

考慮すべき事項が多い生命工学特許

これまでの数十年間、早い速度で成長してきた生命工学はヨーロッパ特許庁
(European Patent Office)の全体出願件数の約4%を占めて上位10大技術分野にランクしています。

▲ 年度別のヨーロッパ特許庁(EPO)の生命工学分野の出願件数及び増減率

生命工学分野の出願は微生物から農業及び医療特許に至るまで多様ですが、このような生命工学発明を特許として登録する時には法的、経済的な側面のみならず倫理的、社会的な側面も考慮しなければなりません。時には出願した発明が果たして特許として適合しているかについて色んな見解が衝突して社会的問題とイシューを生み出すこともあります。遺伝子変形植物(GMO)、動物複製または人間の胚芽幹細胞使用などがその例です。

一般的にヨーロッパ特許庁(EPO)に出願された全体の特許の半分未満だけが最終的に特許として登録されるそうです。その中でも生命工学分野は特許付与率がとても低く、出願件数の約30%未満が最終的に特許として登録されるそうです。このように動植物に関する特定少数の出願件に関しては審査条件がとても厳しく、公開的な論議が進められる可能性があるため、関連技術出願者はこの点を必ず念頭に置いておく必要があります。

ライセンスと研究費

生命工学分野で「遺伝子分離」のような基本的な手続きは研究に必須です。もしこの過程が特許によって利用不可であったり、高い費用で使用しなければいけない場合、研究を進めるのが難しくなる可能性があります。例えば、重合酵素連鎖反応(PCR)は遺伝子工学で極めて少量のDNAを望み通り増幅できる基本過程で、このPCRをテーマに多数の特許が出願されたりしました。

PCRに関する特許は他の研究者たちにライセンスを付与することでPCRを容易に使えるようにして、その結果多くの研究者たちが他の研究を活発に行うことができました。これはPCR特許発表以後、1987年から1997年までの間に現れたPCR技術を参照した科学論文数の幾何級数的な増加した様子から確認できます。通称的にライセンス使用時、特許料を支払わなければいけないため研究費用が増加する可能性があり、この費用は研究の重要な要素として作用します。

▲ Clipartkorea.co.kr

伝統知識を尊重するヨーロッパ特許庁(EPO)

医学を含めて様々な分野に対する豊富な伝統知識を持つ国が多いです。最近では開発途上国の伝統知識を国と住民たちの同意を得ることなく出願して個人や企業が独占してしまう事例もあります。

伝統知識の無分別な民営化を防止するために、EPOは特許付与時に出願対象が特定国の伝統知識に該当するか確認する過程を経ます。この時、EPOはインド伝統知識デジタルライブラリ(TKDL)のように特化されたデータベースを検索及び使用します。2009年にEPOはインド政府とこのデータベースにオンライン接近を許容する協定を締結しました。のみならず、EPOは中国と韓国を含めた他の国々の伝統知識を説明するデータベースをも参考にしているそうです。

▲ インド伝統知識デジタルライブラリ(TKDL)/EPOのアジア特許情報DB

倫理の岐路に立たされた、生命工学

ヨーロッパ特許庁(EPO)は法的土台になるヨーロッパ特許協約(EPC)を厳密に遵守して特許付与時に倫理的事項を考慮します。法(EPC第53条)は倫理的理由で特許を許可しないいくつかの例外事項を明示していますが、人間複製、人間遺伝体の修正、そして人間胚芽の使用などがここに該当します。また、生命工学分野の特許には「生命工学発明の法的保護に関する指針」が適用されますが、該当指針は1999年にEPCの一部になりました。それではEPOで提示した生命工学分野で特許可能な不可能な特許を確認してみましょうか?

▲ ヨーロッパ特許庁(EPO)の特許可能/不可能発明に対するリスト

特許になれるか?

まずヨーロッパ特許庁(EPO)は知られた活動がない遺伝子や未識別された遺伝子ピースに対する特許を付与しません。また、人間遺伝子に対する特許を得るためには該当遺伝子の活動が出願書に記載されている必要があり、単純発見ではなく特許として意味のある発明でなければいけません。つまり、医学的に重要な利点がなければいけません。このように人間遺伝子分野の特許は遺伝子の機能が十分に立証できず、倫理的な問題に抵触すれば出願が拒否されます。一例として、ある出願は出願当時に「人間胚芽を破壊しなければいけないが、分離できた人間胚芽幹細胞の使用」に基づいていましたが、倫理的問題でEP(ヨーロッパ特許)ではこの発明を特許として許容しませんでした。

動物の遺伝子を変形する場合にも法に従って特許を取ることができますが、EPOに提出された関連出願はほとんど医学研究に使用される遺伝子変形ネズミに関するものです。EPOはこれに倫理的な基準を適用しています。変形遺伝発明が動物に苦痛を与えることが判明するとそれが「人間や動物に実質的な医学的利点を提供する時」のみ特許として登録されます。

▲ Clipartkorea.co.kr

紛争イシュー:遺伝子ハサミCRISPR-Cas9と特許権

3世代の遺伝子ハサミと呼ばれるCRISPR-Cas9は、切断酵素を使用して人体に病気を誘発するDNAは切り取り、その場に希望する遺伝子再組み合わせ及び編集をして病気を治療する遺伝体矯正技術です。CRISPR-Cas9は病気から人類を救い、未来を新しく裁断する歴史的な発明として注目されています。

CRISPR-Cas9技術を始めて発表した人はUCバークレーのJennifer A.Doudna教授と当時同じ研究室にいたEmmanuelle Charpentier教授です。彼らは2020年に業績を認められてノーベル化学賞を共同受賞する栄誉を担いました。しかし遺伝子ハサミ利用技術を2012年UCバークレーが先に出願したにも関わらず、2013年後から出願したブロード研究所が迅速審査制度を利用してUCバークレーより先に特許を取得することになり、CIRSPR-Cas9の特許権を置いてUCバークレー対ブロード研究所(MIT及びハーバード大学)の構図で研究機関たちの間の長い特許紛争が始まりました。

2015年熱い序幕を上げたこの法的攻防はアメリカ特許審判員(PTAB)の抵触審査を中心に現在まで展開中です。特許紛争2ラウンド当時、各研究所の主張は以下通りです。


この紛争の結末はグローバルCRISPRライセンス市場を再編するほどの波及力をもたらすと予想されています。CRISPR-Cas9特許戦争は資金力、独創的研究力量、特許制度の手続きが相違する外国で訴訟を効果的に行う能力などが総合された物量戦だと言えます。

更に、CRISPR-Cas9発明の市場価値が圧倒的に大きければ、特許紛争はアメリカまたはヨーロッパ特許庁に限らず他の国に拡大されると予想されます。実際にCRISPR-Cas9の特許権紛争はアメリカ、ヨーロッパのみならず中国、日本でも始まっています。一方でCRISPR-Cas9の特許権者たちが遺伝疾患の治療剤と治療剤の研究開発に使用できる独占的ライセンスを巨額の実施料をもらって特定会社だけに付与するため、CRISPR-Cas9を「プラットフォーム」技術として活用できないという懸念の声も一緒に大きくなっています。

▲ Clipartkorea.co.kr

グローバル環境での生命工学技術特許管理戦略

一、特許審査時に社会的、倫理的に論議される部分は研究計画の段階から検討しなければいけません。また、発明が社会的、倫理的基準に符合すると説得できる根拠と反論に対する対応策を準備しなければいけません。
二、目的に合う特許ライセンス契約を通じて、研究プロジェクトの日程と費用、資金などを合理的に管理しなければいけません。
三、グローバル特許データベースをモニタリングして伝統知識を侵害しない研究を行うべきです。更に、独創的な研究を企画するのに各国の様々なデータベースを活用すべきです。
四、先行技術と特許審判の前例を深く調査して特許適格性に符合する出願書を提出すべきです。
五、国別に相違する特許基準、制度及び法について詳細に把握してグローバル紛争に対応できる専門力量を備えるべきです。

このように生命工学技術の出願現況、国別の特許基準そして最近のイシューを探索することで私たちは特許管理戦略に対する回答を得られます。特許の産業的、商業的な価値が高くなるほど該当発明に対する法的な検討はもっと高度化及び専門化されると思います。従って、技術を特許課した時にIP(知的財産権)の危険と補償を国別の特許環境に合わせて戦略的に評価すること!つまり、グローバル特許管理戦略を設計することは今後、発明なみに重要になると思います。特に、特許可否に対して考慮する事項が多い生命工学分野ではグローバル特許管理戦略を立てるのが必須力量として位置づけすると思われます。

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1. 全体内容抜粋:Patent management : protecting intellectual property and innovation 2021, Oliver Gassmann, Martin A. Bader, Mark James Thompson, Springer
2. 東亜日報記事「“遺伝子ハサミ”特許紛争2ラウンドでもMIT-HARVARDチームが勝った」https://www.donga.com/news/article/all/20220306/112194171/1東亜日報(www.donga.com)参考


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